結論
托卵は「夫以外の男性の子どもを妊娠し、夫に育てさせる」行為であり、裏切りであることは間違いない。しかし、生物学的・歴史的に見れば「女性の生存戦略」として一定の合理性を持ってきた。現代ではDNA検査で真実が明らかになりやすい社会となり、文化的に「絶対悪」とみなされやすいが、根本的には「共同体の論理」と「個人の心理」の対立が透けて見える。
托卵とは？
定義：配偶者以外の男性との子を「夫の子」として産み育てさせること 生物学的意味：より「強い遺伝子」を持つ男性の子を残しつつ、経済的安定を夫から得る戦略 例：鳥類の托卵（カッコウなど）は有名だが、人間社会でも密かに存在してきた
👉 女性にとっては「リスク付きの最強の武器」といえる行為
姦通罪と歴史的扱い
日本の姦通罪（戦前まで）
明治時代の刑法に「姦通罪」が存在した（女性だけが処罰対象） 既婚女性が不倫した場合は懲役刑、しかし既婚男性が独身女性と不倫しても罪にならなかった 背景：男系血統を守ることが最重要だったから
海外の例
ヨーロッパ中世：姦通した女性は火あぶりや石打ち刑 イスラム圏：厳格に姦通罪が残り、今も厳罰が適用される国もある 共通点：女性だけが重罪。男性は比較的寛容に扱われる
👉 不平等の極み。「女は絶対に誘惑されるな」という理不尽な社会規範
男の不倫はなぜ許されたのか？
生物学的視点：男性が種を蒔く行為は「集団としては繁栄につながる」とみなされた 社会的視点：父系社会では「自分の子孫かどうか」が最重要。托卵は血統を乱すため厳禁 結果：既婚女性は死刑や刑罰、男性は「遊び」で済まされる
👉 つまり「血統を乱す可能性のある女＝危険」「種をばら撒く男＝許容」という男尊女卑構造
托卵とDNA検査の時代
現代はDNA鑑定により「父子関係」が簡単に証明できる 研究によると、托卵の実際の発生率は1〜3％程度（かつて噂された10％以上は誇張とされる） 日本でも家庭裁判所や離婚調停で「DNA鑑定→親子否認」事例が増加している
👉 科学が進んだことで「隠し通す」ことが極めて困難に
共同体と個人心理のズレ
共同体的には…「誰の子かわからない → みんなで育てる → 生存率UP」 個人心理的には…「誰の子か分からない → 裏切り、不安、嫉妬」
つまり、かつては「合理的な生存戦略」でも、現代の「恋愛・結婚制度」とは真っ向から衝突する。
女性心理の視点
托卵は「不倫」ではなく「保険」として選ばれることもある ただし「愛」「独占欲」を求める現代女性心理からすれば、葛藤も強い 共同体育児型（みんなで育てる社会）なら「逆ハーレム」的要素もあったが、個人の尊厳は低く扱われた
👉 「女の武器」とは言えても「女の幸せ」には必ずしも直結しない
まとめ
托卵は歴史的には「血統を乱す最悪の裏切り」とされ、女性のみが重罰を受けてきた 男性の不倫は容認されてきた背景には「繁栄」と「父系社会維持」の論理がある 現代ではDNA検査の普及で、発生率は低いながらも容易に発覚する時代に 本質は「合理性（共同体）」と「感情（個人心理）」の衝突 だからこそ托卵は「最低」でもあり「最強」でもあるという二面性を持つ
参考文献
井上章一『不倫の日本史』新潮選書 Sarah Blaffer Hrdy, Mother Nature (Pantheon Books, 1999) Simmons et al. “Paternity uncertainty and parental investment” (Trends in Ecology & Evolution, 2004) 家庭裁判所調査報告「親子鑑定に関する実務」2020年
