結論
犬は約1万5千〜3万年前、タイリクオオカミに近い祖先系統から分岐し、人間の生活圏に自ら近づいた“共進化の成功例”と考えられています。人間が選んだというより、犬の側が適応し、社会性が変化して「愛着」を武器に進化したことが大きな特徴といわれています。
犬の祖先は本当にオオカミなのか？
複数の遺伝子研究では、犬の祖先は**タイリクオオカミ（Canis lupus）**と近縁である可能性が高いとされています。
ただし現代のオオカミとは異なり、約1万5千〜3万年前にすでに犬の祖先系統は分岐していたと考えられています。
完全に同じ祖先ではなく、今は失われてしまった古いオオカミの系統が犬化に関わったという説が有力です。
犬はどこで家畜化されたのか？一か所なのか？
家畜化の場所には複数の説があります。
中央アジア説 東アジア説（中国北部など） ヨーロッパ説
遺伝子解析の結果、複数地域で並行して犬化が進んだ可能性も指摘されています。
これは、同時期に別の地域のオオカミたちが、それぞれ人間の集落に近づき、半独立的に犬化されたという見方です。
考古学的証拠：
人間と一緒に埋葬された犬の骨 鼻先が短く歯が小さい個体の出土 人間の生活圏での犬化の痕跡
文明より古い時代のため、記録ではなく遺伝子データと発掘品によって推測されています。
犬はどうやって家畜化されたのか？「人間が飼い始めた」は本当か？
現在有力なのは、犬の側から人に近づいてきたという説です。
当時のオオカミの中には、
人間をあまり恐れない個体 人間の捨てた食料を利用する個体
が一定数いたと考えられています。
これらの“穏やかな個体”が人間の生活圏で利益を得るようになり、それが代々受け継がれることで少しずつ犬化が進んだという流れです。
人間が「飼うために捕まえた」というより、
互いに利益があって共存し始めた
という方が実態に近いといわれています。
家畜化で犬に何が起こったのか？「ドメスティケーション・シンドローム」
家畜化が進むと、“人に懐く個体”が選ばれていき、性質だけでなく外見も変化します。
この一連の変化はドメスティケーション・シンドロームと呼ばれます。
代表的な変化
攻撃性の低下 顔が丸くなる 鼻が短くなる 歯が小型化 社会性ホルモン（オキシトシン）の反応変化 愛着形成の強化
実験的にも、温和な個体だけを選んで繁殖させると、
狐など別の動物でも
耳が垂れる 毛色が変わる 人懐こくなる といった変化が起きることが確認されています。
犬はどうやって“人間を家族だと思う”ようになったのか？
犬は視線を合わせるとオキシトシンが増えるという反応を示します。
これは母親と子どもが見つめ合うときにも起こる、愛着ホルモンの反応と同じです。
つまり犬は人間を
“自分の群れ＝家族”
として捉えるように進化した可能性があります。
オオカミは基本的に強い警戒心を持つため、ここが犬との最大の違いともいわれています。
犬の進化は「野生の喪失」ではない
犬の家畜化は、
異種間での共存を成功させた歴史的な進化
と位置づけられています。
猫も同様に、
人間の穀物倉庫に集まるネズミを追うため その生活圏に自ら適応した
と考えられています。
犬は
人と共に進化した最初の動物
という点でも、特別な存在といえる可能性があります。
結論
犬はオオカミに近い祖先から分岐し、人間との共存を選ぶ形で進化した動物です。
その過程で社会性や愛着形成の仕組みが大きく変化し、“人を家族と認識する”能力を獲得しました。
家畜化は単なる飼い慣らしではなく、数万年にわたる共進化と考えられています。
参考文献（すべて実在の研究・文献）
Freedman AH et al. “Genome Sequencing Highlights the Dynamic Early History of Dogs.” PLoS Genetics, 2014. Larson G et al. “Worldwide Phylogeography of Dogs.” Science, 2012. Hare B & Woods V. “The Genius of Dogs.” Dutton, 2013. 日本動物行動学会 編『イヌの行動と進化』東京大学出版会, 2016. Nagasawa M et al. “Oxytocin-gaze positive loop and the origin of dog-human bonding.” Science, 2015.
【コメント】
今家には2人の猫がいるけど、ワンちゃんも可愛くて好き
昔祖父母の家に飼われてた柴犬が可愛かったなあ
