結論:猫による引っかき傷・噛み傷で起こる感染は、多くが軽症で経過すると考えられているが、初期対応を誤ると一部で重症化する可能性が報告されている。ワクチンは存在せず、重症化を防ぐ現実的な手段は「早期の洗浄」と「受診判断」である。日常では、傷の軽視を避け、兆候が出たら早めに医療につなぐ行動が重要となる。
猫に引っかかれて起こる感染(パスツレラ・ムルトシダ)とは何か
猫の口腔内や爪には、高頻度で常在すると考えられている細菌が存在する。その代表がパスツレラ・ムルトシダである。
この細菌が引っかき傷や噛み傷から人の体内に侵入すると、局所の感染を起こすことがある。
多くは軽症で自然軽快または抗菌薬治療で改善するとされる一方、条件が重なると敗血症や敗血症性ショックに進行した症例が報告されている。
室内飼いで健康に見える猫であっても、感染リスクがゼロになるわけではない。
なぜ今まで大丈夫でも、急に重症化することがあるのか
猫による傷の特徴として、見た目が小さくても皮膚の奥まで達している場合がある。
このため、
・菌が深部に入りやすい
・表面だけの処置では不十分になりやすい
という性質がある。
重症化は常に起こるわけではなく、
・その時の体調
・傷の深さ
・侵入した菌量
などが偶然重なった場合に、ある一回だけ強く症状が出る可能性があると考えられている。
ワクチンはあるのか
人にも猫にも、パスツレラ・ムルトシダ感染を防ぐ実用的なワクチンは存在しない。
この感染症は、ワクチンで予防する病気ではなく、早期対応によって重症化を防ぐ病気として扱われている。
アルコール消毒はどう考えるべきか
アルコールを何度も噴霧し続ける対応は、一般的には推奨されていない。
理由として、
・表面の菌には一定の効果があるとされるが、深部の菌には届きにくい
・皮膚を刺激し、治癒を遅らせる可能性がある
といった点が挙げられている。
最優先されるのは、流水で数分かけてしっかり洗うことである。
消毒は補助的に1回程度行うにとどめる対応が現実的と整理されている。
病院に行く目安
次のような状況では、早めの受診を考える判断が合理的とされている。
・出血がある
・傷が深そうに見える
・部位が手、指、関節、顔
・半日から翌日にかけて、腫れ、痛みの増強、熱っぽさ、赤みの拡大が出てくる
これらが見られる場合、「様子見」を続けない選択が重症化リスクを下げる。
受診先の考え方
原則として皮膚科で対応可能なことが多い。
ただし、
・指が動かしにくい
・関節の痛みが強い
・発熱、悪寒、強いだるさがある
といった全身症状や機能障害がある場合には、外科や救急が選択肢になることもある。
受診時には、「猫に引っかかれました(噛まれました)」と明確に伝えることで、想定される菌に合った抗菌薬が選ばれやすくなる。
日常での行動指針
猫による傷は、小さく見えても軽視しない。
まず流水で十分に洗うことを最優先とする。
腫れや痛みが出てきたら、早めに医療機関を受診する。
ワクチンは存在しないが、早期対応によって防げる重症化が多いと考えられている。
まとめ
猫に引っかかれて起こる感染は、頻度としては軽症が多い一方、条件次第で重症化する可能性が報告されている。
重要なのは恐れすぎることではなく、初期対応と受診判断を適切に行うことである。
日常生活では、猫と暮らし続ける前提でリスクを最小化する行動を取ることが、現実的で有効な対策となる。
参考文献
・厚生労働省 動物由来感染症について(パスツレラ症)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000168632.html
・日本感染症学会 動物咬傷・引っかき傷感染症
https://www.kansensho.or.jp/ref/dictionary/animal-bite.html
・CDC Pasteurella infections
https://www.cdc.gov/pasteurella/index.html

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