結論
肺の底には「残気量」と呼ばれる空気が確かに存在します。しかしそれは古く淀んだ空気が停滞しているわけではなく、常に酸素と二酸化炭素の交換が行われています。深呼吸をすることで効率的にガス交換が進み、体調や自律神経の安定にもつながると考えられています。
肺に「残る空気」は本当にあるのか?
呼吸生理学では「残気量(ざんきりょう)」と呼ばれる仕組みが確認されています。
息をすべて吐き出したとしても、肺の中には 1〜1.5リットル程度 の空気が必ず残ります これは意識的に吐き出すことはできません 役割は、肺がしぼんでつぶれてしまうのを防ぎ、ガス交換を途切れなく続けるためです
つまり「肺の底に空気が残っている」というのは正しい理解です。
古い空気がずっと溜まっているのか?
よくある誤解は「残気量は入れ替わらないから腐った空気が溜まる」という考えです。
実際には以下のように働きます。
肺の中の袋「肺胞」では、酸素と二酸化炭素のやり取りが常に行われている 空気分子は拡散によって血液と入れ替わる 酸素は取り込まれ、二酸化炭素は吐き出される
したがって、「残気量」は物理的には残り続けますが、分子レベルでは常に更新されています。よどんだ空気がたまっているわけではありません。
浅い呼吸と深い呼吸の違い
ここで大事になるのが呼吸の仕方です。
浅い呼吸 胸の上の方だけを動かし、新鮮な空気が少量しか入らない 二酸化炭素の排出が不十分になりやすく、酸欠感や頭のぼんやりにつながることもある 深い呼吸 横隔膜をしっかり使って息を吸い込むことで、肺の奥まで空気が入る 酸素摂取効率が良くなり、二酸化炭素も排出されやすい 自律神経の安定やリラックス効果も得られやすい
呼吸法の誤解と科学的理解
「肺の底に古い空気が溜まっている」というのはイメージとしては誤解 実際には「残気量」は存在し、それがあることで肺が潰れない 残気量は常にガス交換されているため、腐敗やよどみではない 深呼吸をすることで交換効率が上がり、健康やメンタルに良い影響を与える
まとめ
人間の肺には吐ききれない「残気量」があり、これは事実です。ただしそれは「古い空気が停滞している」というものではなく、血液とのガス交換を支える重要な役割を果たしています。浅い呼吸では交換効率が落ちやすく、深い呼吸を意識することが健康にも精神面にも良い影響を与える可能性があると考えられています。
呼吸を意識するだけでも日常の体調は変わるかもしれません。誤解を解いて正しい呼吸法を取り入れることが、現代人のストレスや不調を和らげる一助になるでしょう。
参考文献
西村正治『呼吸の生理学』医歯薬出版, 2016年 Guyton and Hall, Textbook of Medical Physiology, 13th Edition, Elsevier, 2016 日本呼吸器学会 呼吸生理に関する解説資料
